心の名馬たち(3) シックスセンス

大いなる可能性を秘めた馬・シックスセンス


GⅠ勝ちもなければ

通算でも2勝しかしていないのだから

記録的には胸を張れない。

同世代のディープインパクトの影に隠れ

印象的な走りが少ないので

たくさんの人の記憶の中に刻まれる事もない。

種牡馬になったが産駒が多いわけではないし

早くに逝去してしまったので

血統表でその名前を見かけることもあまりない。






端的に言えばごくごく平凡な馬である。





だが、シックスセンスは

ファンの心をくすぶる何かを持った馬だった。

勝てないレースがしばらく続いたが

それでも強い馬を相手に崩れずに

精一杯の走りを見せてくれた。



絶対値の違う走りで

圧倒的なパフォーマンスを見せられなくても

個性的なスタイルで

ファンの声援をひとり占め出来なくても

『この馬の力はまだまだこんなモノじゃない』

走るたびにそう思わせてくれる何かを

感じさせる馬だった。

そして、大いなる可能性を秘めたその想いは

少しずつ実を結び始めていた・・・。



己のスタイルの確立


シックスセンスが競走馬としてターフに登場したのは

2歳夏の函館の地だった。

デビュー戦は鞍上に四位洋文ジョッキーを迎え

後方からの競馬で2着と敗れるものの

鋭い末脚を披露して素質の片鱗を窺わせる。

続く2戦目も同じ1800m戦を走ると

中団を追走し、4コーナー手前から一気に動いていくと

直線では後続を突き放しあっさりと初勝利を飾った。



そして、3戦目のデイリー杯2歳ステークス(GⅡ)で

初めて中央場所で走ることになる。

だが、レースでは好位からの競馬を試みるも

勝ち馬から5馬身ほど離された8着と敗れる。

このマイル戦での敗戦により

シックスセンスはこれ以降

クラシック路線に狙いを定めていく。



2歳時はこの後、京都2歳ステークスと

ラジオたんぱ杯2歳ステークス(GⅢ)を走って

4着、3着とあと一歩の走りが続く。

レースは共に後方で脚を溜める形で

いずれも上がり3ハロンは最速タイの脚を使っていた。

この馬らしい走りが徐々に形づくられていく。





年が明けて1月の京成杯(GⅢ)。

雨の降る中山競馬場は不良馬場のコンディションだった。

切れ味が身上のシックスセンスには

分が悪い戦いに思えた。

観客もそう感じていたようで戦績の割には

低評価の4番人気だった。



だが、シックスセンスと四位ジョッキーに

迷いはなかった。

いつも通りの後方待機策で直線勝負に賭けると

力強く直線の坂を駆け上がって2着に突っ込んでくる。

勝ち馬アドマイヤジャパンの

走破時計2:07:4が物語るように

タフなレースを乗り越えて本賞金を加算した。

これでようやくオープン馬の仲間入りである。



この走りで勢いに乗るかと思われたが

きさらぎ賞(GⅢ)、若葉ステークスを続けて4着。

差のない競馬はしているものの

突き抜ける何かが足りない。

そんな競馬が続いていた。



特に、賞金的に皐月賞(GⅠ)への出走が

微妙だったために使うことになった

トライアルの若葉ステークスでは

2着以内が絶対条件だったが期待には応えられなかった。

残念ながら皐月賞(GⅠ)への狭き門は閉ざされた。



舞い込んだGⅠ出走のチャンス


ところが、賞金上位の馬の中に皐月賞(GⅠ)をパスして

日本ダービー(GⅠ)に目標を絞る馬や

マイル路線に狙いを定める馬が多く

本賞金1200万のシックスセンスにも

出走の目が出てきた。

そこにきて、スプリングステークス(GⅡ)2着で

優先出走権のあったウインクルセイドが

屈腱炎によりやむをえず回避したことにより

シックスセンスにチャンスが回ってきたのである。



2005年4月17(日) 中山競馬場。

皐月賞(GⅠ)の10番枠にシックスセンスの名前があった。

しかし、人気の方は12番人気と低く

競馬ファンの関心はたいして向けられていなかった。



出馬表には重賞ウイナーが名前を連ね

その中でもディープインパクトの存在は群を抜いていた。

デビューから3戦無敗。

既に世代最強馬の呼び声も高く

単勝は1.3倍の1本被りだった。



大きく離れた2番人気が

昨年の2歳チャンピオンのマイネルレコルト。

そしてシックスセンス自身が

既に戦って先着を許したアドマイヤジャパンや

ローゼンクロイツ、ヴァーミリアンに

アドマイヤフジなどが伏兵として顔を揃えていた。



ディープインパクトはどんな競馬を魅せてくれるのか。

ファンの目の大半はそこに向けられていた。

一方で、まだ対戦経験のない逃げ馬ビッグプラネットや

スプリングステークス(GⅡ)で後方一気を決めた

ダンスインザモアに夢を託したファンもいた。

繰り返しになるが

シックセンスに熱視線を向けていた者は

関係者を除くと極めて少なかったのである。





スタートの時間が刻一刻と迫っていた。

(やけに良く見えるな・・・。)

とあるWINSでパドック画面を見つめる男が

意識を奪われていたのはマイネルレコルトだった。

張りのある馬体ははち切れそうなほどで

460㎏の数字以上に大きく見せていた。



「よし、レコルトでいこう。ディープの相手はこれだ!」

男は決断を下した。

「あれ、シックスセンスじゃなかったの?」

その決断を揺るがすように友人が男に疑問を投げかける。

「いや、まぁ、応援したいんですけどね・・・。」

函館のデビュー2戦目の走りを見て

シックスセンスに魅了された男は歯切れ悪く答えた。

「シックスはまだ足りないですよ、だから抑えまで。

 このデキならレコルトで間違いないでしょう。」

男はマークシートを塗りはじめた。

(パドック見といて良かったな。これなら当たるだろう。)





スタートが切られた。

ディープインパクトが躓くような格好になり出遅れる。

シックスセンスは馬なりに

中団の後方にポジションを取った。



2コーナーを回って向正面に出ると

先頭から後方までが

20馬身ほどある縦長の隊列になった。

ビッグプラネットが先陣を切って

コンゴウリキシオーがこれに続いた。

アドマイヤジャパンは先行グループについていく。

マイネルレコルトはちょうど中団あたり。

その2馬身後ろでシックスセンスも流れに乗っている。

そしてディープインパクトが

シックスセンスの外まで上がってくる。



3コーナーに掛かって、馬群が10馬身ほどに固まった。

中団にいたマイネルレコルトが早めに仕掛けて

先団の外に取り付いていく。

ディープインパクトも手を動かして

先頭まで3~4馬身のところまで進出。

これを目掛けてローゼンクロイツが動いていく。



4コーナーを回って一気に先頭はマイネルレコルト。

しかし、これ以上の脚はもう残っていない。

勢いに翳りが見られた。

そこへ外からあっという間に

ディープインパクトがやってきた。

次元の違う走りで先頭に躍り出る。

最内から馬群の中へと進路をとったアドマイヤジャパンが

マイネルレコルトの内側から追ってくる。

そして外からは黄色い帽子の

社台ファームの勝負服の馬が伸びてきた。



一瞬、目を疑ったが

それは、紛れもなくシックスセンスだった。

ディープインパクトの後ろを追いかけるように

いつの間にか2番手まで上がっている。

結局、ディープインパクトが

2馬身半の差をつけて勝利した。

シックスセンスが2着に入ったおかげで

三連単は700倍を超える波乱となった。

3着はアドマイヤジャパン。





男の手の中で馬券は単なる紙屑になった。

溜息と愚痴が止めどなく溢れてくる。

自責の念に駆られ荒れ狂う男を嘲笑うかのように

シックスセンスは皐月の季節に変身を遂げた。





皐月賞の前後半の1000mは共に59.6秒。

誰もが能力をいかんなく発揮できるレースだった。

だからこそディープインパクトの強さは際立った。

そしてシックスセンスの走りもフロックではないと言える。

クラシックでの更なる活躍が楽しみになってきた。

と同時にファンにシックスセンスここにありを

高らかに宣言した走りだった。



ライバルの高く厚い壁


だが、ディープインパクトの壁は

遥かに高く、そして厚かった。

ファンがまだ半信半疑だった日本ダービー(GⅠ)では

7番人気の評価を覆し3着と好走するも

ディープインパクトからは7馬身半もの差をつけられた。



夏を超えて迎えた秋初戦の神戸新聞杯(GⅡ)では

2馬身半差の2着と健闘したが

抜け出したディープインパクトには

あっさりと突き放された。

続く菊花賞(GⅠ)では

ディープインパクトを除く馬の中では

最上位評価の2番人気の支持を得るも

距離の壁なのか直線では伸びきれず

6馬身半差の4着に敗れた。



誰の目にも能力の違いは明らかだった。

それでも絶対王者を相手にクラシック三冠レースを

2着、3着、4着で乗りきったのは立派である。



世界を相手に堂々と張り合う


この後、陣営はジャパンカップ(GⅠ)を

ひとつの目標に掲げたが

賞金的に厳しいということで

香港ヴァーズ(GⅠ)に矛先を向けた。

異国の地で2400mの一戦。



この年の凱旋門賞(GⅠ)2着から参戦の

ウエスターナーと

世界を股にかけて活躍した

名牝ウィジャボードを中心に

世界の重賞ウイナーたちと覇を競うのである。

まだ同世代の馬としか戦ったことのない

シックスセンスにとっては

かなり厳しい戦いになる事が予想された。



ゲートが開いた。

タイミングが悪かったのかシックスセンスは

飛びあがるような形の発馬で出遅れてしまう。

だが、鞍上の四位ジョッキーに慌てた様子はない。

スタンド前の直線で早めに中団に取り付く。

ウエスターナーとウィジャボードは後方よりを進んでいる。



レースは淡々とした流れで進み

各馬は2コーナーを回り、向正面を通過する。

動きがないまま3コーナーへと向かっていく。

ここで外を回ってシックスセンスが仕掛けていく。

手応えがあるのだろう。

勝ちを意識した積極的な動きに見える。

その内で地元香港のベストギフトが抜かせまいと

併せるように動いていく。

真後ろにはウエスターナーが上がってきた。

ウィジャボードは思い切って

馬群の中へと突っ込んでいった。



4コーナーを回って直線。

内の先行勢が苦しくなったところを

外から一気にシックスセンスが捉えて先頭に出る。

しかし、内のベストギフトも譲らない。

そこに、更に内からウィジャボードが

弾けるように飛んできた。

前に出られたと思ったら

みるみる差が広がっていく。

まるで遠ざかるディープインパクトの背中のように

一気に離されていく。

結局、ベストギフトとの

2着争いを制したところがゴールだった。



濃度の濃い中身の詰まった2着だった。

そうそうたる相手との素晴らしい走りは

この馬の価値を上げるとともに

ひいては同世代のディープインパクトの

価値を高めたともいえる快走だった。



早過ぎた最後のレース


年が明け、短い休みをとったシックスセンスは

始動戦に京都記念(GⅡ)を走ることになる。

この頃にはシックスセンスの能力を疑う者は

ほとんどいなくなっていただろう。

皐月賞(GⅠ)のレース前には

振り向いてももらえなかった馬が

今やこの年の期待の古馬の一頭である。



陣営からは春のプランが発表され

目標は再びの香港。

4月のクイーンエリザベス2世カップ(GⅠ)に

照準が定められた。



負けられない始動戦となった。

単勝1.8倍。

そこには、人気の中心となったシックスセンスがいた。

しかも斤量56㎏は出走馬の中で最軽量。

まだ明け4歳とはいえ、GⅠ2着2回の馬にとっては

恵まれたと言ってもいいだろう。



今回が初騎乗となる武豊ジョッキーを背に

シックスセンスは中団を進む。

一旦、後方にポジションを下げたが

3コーナー過ぎから進出を開始すると

バラけた直線の攻防の大外へと進路をとる。



前の争いは実力馬シルクフェイマスを捉えた

京都の鬼・マーブルチーフが早め先頭に立った所に

外から重賞3勝のサクラセンチュリーが迫ってくる。

これにシックスセンスが猛然と追い込んできた。

外の2頭の切れ味が勝りマーブルチーフは脱落。

最後は一騎打ちになった。

まさに首の上げ下げ。

軍配はハナ差でシックスセンスに上がった。



ゴールの位置がたまたまそこにあったからか。

ジョッキーが武豊だったからか。

それともシックスセンスが成長を遂げていたからか。

いろいろと意見はあるだろうが

それは、この馬の類まれな根性と

たくさんのファンの声援の一押しだったに違いない。

思えば香港ヴァーズ(GⅠ)でも

ハナ差のデッドヒートを制して2着したのだ。

誇り高きプリンス・シックスセンスが

ようやく手繰り寄せた執念の2勝目だった。





ところが、競馬の神はシックスセンスに

残酷な仕打ちをする。

屈腱炎の発症。

3月に入ってすぐのことだった。

そして、月末には引退が発表されたのだった。

14戦2勝。

その字面では伝える事が出来ない

強さと魅力を兼ね備えた馬の

あまりにも唐突な引退だった。



父としてのシックスセンスは

これまで目立った成績を残していない。

2012年の秋華賞(GⅠ)で

大まくりの思い切った策に出たチェリーメドゥーサが

あわやのシーンを演じたのが記憶に新しい。

だが、そのシーンを見ることなく

シックスセンスは繋養地である

アイルランドで2010年にこの世を去った。





まだ、君の走りを見ていたかった。

進化の過程に夢を描きたかった。

だが、いつも100点の答えが出るわけではない。

満足できる結果を得られるわけではない。

悔しくても残念でも

受け止めなければいけないことがある。

それはわかっているけれど・・・。

それでもやっぱり君の雄姿を見たかった。

もっと強くなった君の走りが見たかった。



シックスセンスの引退レースを通じて思うこと


シックスセンスの引退レースとなった京都記念(GⅡ)は

非常に厳しいレースだったようで

同タイムで2着した

サクラセンチュリーも左前脚の腱を痛め

約2年後に復帰したものの

復帰戦の鳴尾記念(GⅢ)で今度は腱を断裂してしまい

予後不良となりました。

同3着のマーブルチーフは

その後1度走った後に筋肉痛をおこし

放牧中に屈腱炎を発症しました。



激走の後には、名勝負の裏には

こういった悲しい事が起こることがよくあります。

京都記念(GⅡ)の場合は

そこに馬場の悪さも加わったようです。



競走馬にケガはつきものです。

特に、最近は馬場のスピード化で

能力のある馬ほど、スピードのある馬ほど

ケガをしてその馬の能力の全てを見せられないまま

ターフから姿を消していくケースが増えている印象です。



競馬ファンとしては自分の好きな馬が

あるいはそのライバルが

強い馬が、速い馬が、いやどんな馬でも

大きなケガなどなく

競走馬人生を終えてくれる事を望んでいます。

いつだって想う事はただひとつ。

無事是名馬なんですよね。



あとがき・シックスセンスとの思い出

シックスセンスが引退した翌年の2007年の9月に

僕は北海道を訪れました。

札幌競馬場での競馬観戦と

様々な牧場を回るための2泊3日の旅行でした。




そこで、当時レックススタッドにいたシックスセンスに

会う機会がありました。

柵で覆われた放牧地の中央付近にいたシックスセンスを

少しでも近くで見たいと思い

僕は近くの牧草を手に何とかおびき寄せようと

『シックス、シックス!!』

と声を掛けますが素知らぬ顔で佇んでいます。



近くで写真を撮っていた方の話では

シックスセンスは現役の時から

周りを寄せ付けないところがあり

なかなか側に近寄ることはできないそうなんです。

その話とその佇まいから

勝手に『誇り高きプリンス』という印象を受けました。



どれくらい粘ったかはわかりませんが

仕方がないなといった感じで

シックスセンスがこちらにやって来てくれました。

僕の手の中でしなしなになった牧草に口をつけましたが

『フンッ』と鼻をならして踵を返してしまいました。



(それがマズいのは知っているんだよ。)

(構ってやったんだから早いとこどっかへ行きな。)

そんな声が聞こえてきたかのようでした。

こいつ、いい気になりやがって。

そう思いながらも僕の顔はにやけていたと思います。

少しだけでしたがシックスセンスに触れることが出来て

手のひらで鼻息を感じる事が出来て幸せでした(笑)



余談ですが、こちらには

サクラプレジデントも繋養されていて

この馬の愛想のいいこと。

人懐っこくて思わずファンになっちゃいました。

クラシック路線では

共にあと一歩の競馬をした彼らですが

性格は正反対だったようです。



ともあれ、シックスセンスとの素敵な思い出は

僕の中で消えることはありません。

ありがとう、シックス!!





※最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


一競馬ファンが偉そうなことを言ってしまい

気分を害された方もいるかと思います。

もし、そうでしたら謝ります。失礼しました。



しかし、シックスセンスのファンだからこそ

伝えたいこと、書き残しておきたいことが

あったのも事実です。

このブログを読んで

少しでもシックスセンスに

魅力を感じていただけたなら嬉しいです。

もしよろしければ、コメントをいただけると幸いです。

どうもありがとうございました。


はるかなる。





★はるかなる。の人生ゴボウ抜き!!★は

毎日20時30分~21時頃に更新しています。




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