心の名馬たち(4) メイショウトウコン

メイショウトウコンとの出会い


2006年の夏の札幌競馬場のとあるレース。

僕は、マンオブパーサーという馬が

どんな競馬をするかに注目していた。



この年のヒヤシンスステークスで

フラムドパシオンの2着。

フラムドパシオンは当時

化け物扱いされていたから

勝てないのは仕方がなかったが

前走から大幅に体を減らしながら

3着に3馬身半の差をつけたレースぶりに能力を感じ

それ以来、注目するようになった。



休養明けの2戦を古馬に交じって連続3着。

そして迎えた今回の札幌戦だった。

馬柱を見ても特に目立つ馬もいなかったので

ここは大丈夫だろうと思った。



レースではいつものように好位に取り付くと

直線では先に抜け出した馬を捉えて先頭に立つ。

見ている僕が一息つきかけたところへ

さっきまでケツの方を走っていたはずの

2番の馬が突っ込んできた。

だが、さすがに直線が短く半馬身これを振り切って

マンオブパーサーが1着でゴールした。



応援していたマンオブパーサーが勝った喜びではなく

『あの2番はなんだ!?』

という思いに駆られて

慌てて新聞を手繰り寄せた。

その馬は前走で下級条件を勝ったばかりの馬で

レースも見たことがなければ

馬名すら知らなかった。



メイショウトウコン



『なんだか凄い馬を見つけたな』

そう思いつつも頭のどこかで

今回はたまたまハマっただけかもしれないなと考え

次にレースに出てくるときに気付いたら買おう

くらいに考えていた。



そして、メイショウトウコンは次走で

同じ条件の札幌ダートの1700m戦に登場すると

1番人気に応えて差し切り勝ちを披露する。

『こりゃ、本物だ・・・』

そう感じるとともに

『メチャメチャ、俺のタイプの馬だ!!』

と確信した。

強烈な差し脚に魅了され

すっかり虜になってしまった。



トウコンへの期待は胸の中で膨らんでいった。

だが、まだ1000万下を勝ったばかりの馬である。

それもローカルの1700mのレースで

強い勝ち方をしたくらいでは

重賞レベルでどこまでやれるのかはわからない。

ここからはいつ壁にぶつかってもおかしくないだろうな。

そんな風に考えていた。



一気にGⅠの大舞台へ


ところが、トウコンの走りは切れ味を増していった。

続く準オープンのレースは京都競馬場の1800m戦。

脚抜きのいい重馬場と

前走から-18㎏で

デビュー以来最軽量に減った馬体だったが

怒涛の大外一気のゴボウ抜きで快勝。

更に年明けの平安ステークス(GⅢ)では

9番人気の支持を覆し

サンライズバッカスやフィールドルージュを退け

初重賞タイトルを手にする。



デビューから1年半。

芝のレースを走り18戦1勝だった馬が

ダートに活躍の場を見出してからは

僅か半年で5戦4勝の成績を挙げ

次走でGⅠに挑戦するまでになった。

その豪快な末脚に、トウコンに対する

競馬ファンの注目度は増していった。





2007年2月18(日) 東京競馬場。

フェブラリーステークス(GⅠ)が行われた。

トウコンにとっては初の関東遠征に加え

芝スタート、左回り、ワンターンのコース形態と

初物尽くしで迎えた大舞台となった。



レースでは例によって後方でじっくり脚を溜めて

最後の直線へと向かってきた。

ところが、これがホントにあのトウコンなのか

と思ってしまうほど全く伸びてこない。

大外へ出せなかったこともあるだろうが

それにしても勝負になっていない。

盛り上がりを迎えるゴールに最初に飛び込んだのは

前走で破った同期のサンライズバッカスだった。

GⅠ独特の雰囲気に呑まれたのか

トウコンは11着と大敗した。



思い出のレース・東海ステークス(GⅡ)


高い壁に跳ね返されたトウコンだったが

続くアンタレスステークス(GⅢ)3着で

再び力のあるとこを見せると

重賞2勝目を狙い中京へと遠征することになった。





2007年5月20(日)。

男はWINSのエクセルフロアで

メインレースの予想に興じていた。

メインといっても東京競馬場のメインの

オークス(GⅠ)ではなく

中京競馬場の東海ステークス(GⅡ)である。



本命はメイショウトウコンで決まりだ。

この馬が強いのは明らかだ。

2300mに距離が延びるが

父が菊花賞馬(GⅠ)のマヤノトップガンで

母系にリアルシャダイが入っているのだから

大丈夫だろう。

問題は芝の時代も含め、結果の出ていない左回りだが

好きな馬なんだから目を瞑ろうと決めた。



フルゲートの一戦でひと癖ある馬だらけ。

予算が乏しいのもあいまって

買い目を絞るのに苦戦した。

あーでもない、こーでもないと頭を捻らせ

締め切り2分前に三連単を18点購入して席に戻った。

1番人気のキクノアローと

穴で買う予定だったマイネルボウノットの番号は

馬券には含まれていなかった。





向正面のゲートが開いて16頭が飛び出した。

スタートはバラバラだったが

トウコンはまずまずの飛び出しを見せる。

前に行きたい馬が多く展開は縦長。

トウコンは中団の後方に構えて

1週目のスタンド前へと向かってくる。

キクノアローが蓋をするように外に並んだ。



1コーナーから2コーナーへと向かう。

ペースが落ち着いて全体の間隔が詰まり

一塊の集団になって向正面の中ほどを駆けていく。

残り1000mを切って逃げるクーリンガーに

2番手からシャーベットトーンがプレッシャーをかける。

必然的に前のペースが次第に上がる。



3コーナーにかかって

馬群の外へ出したトウコンが動き始める。

キクノアローは既にステッキが飛んでいる。



4コーナーに差し掛かると

逃げていたクーリンガーをつかまえて

シャーベットトーンが先頭に出る。

これに外からマイネルボウノットが

抜群の手応えで並んでいく。

直後からサカラートが上がってきた。

ワンダースピードもいい手応えだ。

外へ出したエーシンラージヒルがこれに続いて

さらに外にジュレップを挟んで

トウコンが大外を回って勢いをつけて追いこんでくる。

キクノアローは完全に圏外に沈んだ。



直線に入ってシャーベットトーンと

マイネルボウノットが激しい追い比べを繰り広げる。

そこへ内に進路を取ったワンダースピードが

するすると脚を伸ばして先頭に踊り出る。

大外からトウコンがぐんぐん伸びて

その一歩内からはサカラートが脚を伸ばす。

烈しい攻防になったが残り50mほどで

トウコンがまとめて捕えきって先頭に。

ワンダースピードが2着を守ってゴール。

3着は写真判定となった。





・・・どっちだ。

ゴール前は極度の興奮と緊張で

吐いてしまうかと思った。

ハナ差の勝負なのは間違いない。

このハナ差で天国か地獄かがはっきりする。

「あっ・・・。」

3着に14の番号が灯った。

・・・当たった。

久しぶりに訪れる、腹の底から沸き上がるような

喜び火山の大爆発だった。



ジャパンカップダート(GⅠ)での名勝負


その後のトウコンはエルムステークス(GⅢ)で

マコトスパルビエロやロングプライドといった

3歳馬を一蹴して3つ目の重賞タイトルを手に入れると

ジャパンカップダート(GⅠ)を4着

東京大賞典(GⅠ)を3着と安定した走りを見せる。



年が明けて2008年初戦の平安ステークス(GⅢ)は

クワイエットデイの大駆けの前に2着。

しかし、この辺りから少しリズムが悪くなり

交流重賞では勝利を積み重ねるも

JRAの重賞レースでは

馬券圏内にも入れないレースが続くようになる。



そんな中で11月のJBCクラシック(JpnⅠ)を

ヴァーミリアンから1馬身ほどの3着と

久しぶりに力強い走りを見せる。

これをステップにジャパンカップダート(GⅠ)へと

向かうことになった。





2008年12月7(日) 阪神競馬場。

当時、圧倒的な存在感を誇っていた

ヴァーミリアンを筆頭に

そうそうたるメンバーが一堂に会して

ジャパンカップダート(GⅠ)が行われた。

トウコンは7番人気で単勝オッズは25倍。

GⅠの舞台ではまだインパクトを残していないだけに

この評価も仕方がないところだろう。



冬晴れの午後、いつもと同じようにゲートが開いた。

好スタートを切ったのは

アメリカから参戦のティンカップチャリス。

内外を見ながら先頭に立つ。

外からは船橋の雄・フリオーソがじわりと上がってくる。

内側からは抑えきれない感じで

2番人気の3歳馬サクセスブロッケンが

するすると先団に取り付いていく。

どの馬も積極的な動きではない。

逃げたくはない、目標にはなりたくないといった感じで

牽制しながら1コーナーに飛び込んでいく。



これが生涯初ダートになるアドマイヤフジと

紅一点の8歳馬メイショウバトラーがこれらに続く。

ヴァーミリアンは中団の後ろに構えて

トウコンはいつも通り後方からの競馬になった。



ペースが落ち着いた2コーナーで

我慢の利かないサクセスブロッケンがハナに立つ。

3番人気の評価を得ていた

アメリカ帰りのカジノドライヴも

外から好位まで上がる。

その内側には大怪我を乗り越えて

前走で2年半ぶりに実戦に復帰したカネヒキリが

復活を目指して流れに乗っている。

GⅠ7勝の古豪・ブルーコンコルドが中団を占めて

向正面の中ほどを過ぎていく。



ヴァーミリアンは

相変わらず後方よりでレースをしていたが

外からジワーッと動き始める。

これを見て最後方にいたトウコンも

その後ろを追いかけるように上がっていく。



3コーナーに入って

逃げていたサクセスブロッケンに

外からフリオーソが迫っていく。

カジノドライヴもこれに反応する。

間でティンカップチャリスは手応えが鈍りはじめる。

直後のインのポケットにカネヒキリ。



600mを切って、外々を回って

ヴァーミリアンが好位集団に追い付き

さらにその後方からはトウコンが

藤田ジョッキーが激しく手を動かしながら

前との差を詰めていく。



4コーナーにかかって

トウコンの動きが一段と鋭くなる。

ヴァーミリアンを呑みこむような勢いで

先団に取り付いていった。



直線に入って、逃げるサクセスブロッケンが

懸命の粘り腰を見せるが

前半に力んだ分なのか直線半ばで苦しくなる。

そこへ、2番手のフリオーソとの間にできたスペースに

カネヒキリが『待ってました』と

言わんばかりの反応で突っ込んでくる。

外にいたカジノドライヴはいまいち伸びきれない。

そこに、更に外から赤い帽子の

ヴァーミリアンとトウコンがグイグイ伸びて

先頭に立ったカネヒキリに迫っていく。



残り100m。

3頭が塊になってゴールへと向かってくる。

気付けば6歳馬3頭である。



右前浅屈腱炎を発症するまでは

ダートではほとんど敵なしだったエリート・カネヒキリ。

そのカネヒキリが表舞台から姿を消している間に

著しい成長を見せ、変貌を遂げて

タイトルを次々に手中に収めた良血、ヴァーミリアン。

そして、これまでは華やかな舞台には縁が無かったものの

胸のすくような凄まじい豪脚を繰り出す

叩き上げのメイショウトウコン。

タイプの全く違う3頭が

それぞれのプライドを胸に最後の100mに挑む。



その脚色は鈍らない。

カネヒキリが内で粘りこみを図る。

もはや長いブランクを感じさせることはない。

現王者も必死に追っている。

ヴァーミリアン。

時代を終わらせるわけにはいかない。

勢いではトウコンが一番だ。

藤田ジョッキーの鞭にも一段と熱がこもる。



『残せ!!』

『差せ!!』

『行け、行け!!』



歓声や喚声に乗って様々な想いが飛び交う。

ヴァーミリアンが僅かに遅れた。

トウコンが全身全霊の走りで

かつての王者を捕えにかかる。

一完歩ずつ、一完歩ずつ差を詰めて

『よし、差せる!!』

そう思った瞬間に

カネヒキリが先頭でゴールに飛び込んだ。



復活である。再建である。

カネヒキリは単なるエリートではなかった。

あと一歩まで迫ったものの

トウコンに栄冠は輝かなかった。

上がり最速の末脚を駆使したトウコンだったが

これは追い込み馬の宿命としか言いようがない。

インコースで巧く立ち回ったカネヒキリに対して

トウコンは大外を回り続けた。

一番強い競馬をしたのはトウコンだった。

だが、競馬の神が認めたチャンピオンは

カネヒキリだった。





精も根も尽き果てたのかもしれない。

その後のトウコンは精彩を欠き

結局、勝利を挙げることはなく

2011年に現役を退いた。



一世一代の大駆けだったと言っていい。

ただ、展開がハマっただとか

フロックなどではない。

カネヒキリとヴァーミリアンという

2頭の偉大なる王者を相手に魅せた豪脚は

見る者の心に響き

トウコンの存在を揺るぎないものにした。



【諦める】という選択をしなかった関係者


人生はメイショウトウコンのようなものだと

思うことがあります。

彼はダートという生きる道を見つけたからこそ

その存在を多くの競馬ファンに

見せつけることが出来ました。

芝のレースだけを走り続けていれば

もしかしたら初勝利が

生涯唯一の勝利だったかもしれません。



この馬はずっと陽の当たらない道を

歩んできたのだと思います。

でも、関係者は諦めなかった。

新たな道を模索した。

そして、トウコン自身も強くなろうとした。

だからこそ、ジャパンカップダート(GⅠ)で

あれほどの走りを披露するまでになったのだと思います。



全身に鳥肌が立つような感覚を体験させてくれた

強烈な末脚の持ち主・メイショウトウコン。

こういう馬に巡り合えると嬉しくなります。

極端な戦法でしか走れないので

いろいろと不利も多いのですが

それでも迷わず大外へ進路を取り

風を切り、砂塵を巻き起こしながら

猛然と突っ込んでくる。



いい馬だった、メイショウトウコン。

君のおかげでゴール前では

いつもドキドキハラハラしていました(^ ^)



あの夏、はじめて僕の目に飛び込んできた

当時、まだ1000万条件にいたトウコン。

それは、単なる偶然ではなかったのかもしれません。

その存在を知ることができて

ファンになれて良かったなと思います。

ありがとう。メイショウトウコン。



そういえば東海ステークス(GⅡ)で

儲けたお金で買ったスニーカーは

ボロボロになったけど

まだ現役で頑張っています。





※最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


一競馬ファンが偉そうなことを言ってしまい

気分を害された方もいるかと思います。

もし、そうでしたら謝ります。失礼しました。



しかし、メイショウトウコンのファンだからこそ

伝えたいこと、書き残しておきたいことが

あったのも事実です。

このブログを読んで

少しでもメイショウトウコンに

魅力を感じていただけたなら嬉しいです。

もしよろしければ、コメントをいただけると幸いです。

どうもありがとうございました。


はるかなる。





★はるかなる。の人生ゴボウ抜き!!★は

毎日20時30分~21時頃に更新しています。




スポンサードリンク



コメントを残す

サブコンテンツ

このページの先頭へ