心の名馬たち(8) ポップロック

5歳の春に訪れた突然の覚醒・ポップロック


ポップロックという名前を聞くと

その響きからなのか

どこか親しみやすい印象を受けます。

覚えやすい名前なので記憶にも残りやすいですね。



ただ、それとは別にもうひとつ浮かんでくる印象があります。

それは、突然の覚醒。

若い頃は、どこにでもいるような平凡な馬でしたが

歳を重ねて、経験を積むと

GⅠでも堂々たる走りを披露するようになるほど

競走馬として進化していきました。

一流馬になっていく、その軌跡を見ていきましょう。



3連勝の勢いを持って挑んだ目黒記念(GⅡ)


ポップロックは、2003年9月に行われた2歳新馬戦で

デビュー勝ちを収めたものの

それから2年半の間に勝利を挙げたのは僅かに1つだけ。

5歳の春の時点では、500万条件にいる

パッとしない馬の1頭に過ぎなかった。



ところが、3ヶ月ぶりの実戦となった

4月の500万の平場レースを5馬身差の圧勝で飾ると

連闘で臨んだ1000万下の特別戦も快勝。

さらに、次走でも勢いは止まらずに

後続を6馬身突き放す一方的な勝ち方で3連勝を挙げる。



厳しいローテーションのなか

この流れに乗って陣営は

中1週で重賞の目黒記念(GⅡ)に

挑戦することを決めた。

当時は、まだ準オープンの身だったために

ハンデ戦のここでは54㎏という斤量だった。



人気は4頭に割れていた。

その中で1番人気は

2ヶ月前の阪神大賞典(GⅡ)で逃げて

ディープインパクトの2着と健闘したトウカイトリック。

これに僅かに後れをとったのが

昨年の天皇賞・春(GⅠ)で3着に入り

秋には、オーストラリアのGⅠ・コーフィールドカップで

クビ差2着に入ったアイポッパー。



ポップロックが3番人気の支持を集め

続く4番人気は

前述の天皇賞・春(GⅠ)でアイポッパーに

ハナ差及ばず4着のトウショウナイトだった。



スタンド前のゲートが開いた。

内から、ステッキを入れて

トウカイトリックが行こうとしたが

外から押して押して

格下の軽量馬(52㎏)エクスプロイトが

譲らずにハナを奪って1コーナーに飛び込んでいった。



先頭から後方までが20馬身ほどもある

縦長の隊列になった。

ポップロックは、好位グループの後ろで流れに乗って

アイポッパーは、その2馬身後ろの

インコースで競馬をしていた。

トウショウナイトは、そこからさらに2馬身後ろで

中団の後方を追走していた。



向正面の中ほどを過ぎたあたりで

前のペースが緩くなったために

縦長だった集団が徐々にかたまっていく。



3~4コーナーの中間。

2番手のトウカイトリックの反応が鈍い。

ジョッキーの手が休むことなく動いている。

ポップロックは好位集団の内寄りにいて

いつでも動けそうな手応えがある。

トウショウナイトが大外を回って

早めにこの集団に取り付いていった。



4コーナーから直線へ。

早々に手応えを失ったトウカイトリックは

馬群に飲み込まれていく。

逃げるエクスプロイトに外から馬体を併せてきたのは

昨年の3着馬・ダディーズドリーム。

その後ろから前がポッカリと開いたポップロックが

ダイナミックな走りでこれに迫ると

残り300mで先頭に躍り出る。

しかし、その後ろから馬群を縫うように上がってきた

アイポッパーがじわじわと忍び寄ってきた。



残り200m。

ポップロックとダディーズドリームの

間にできたスペースに突っ込んだアイポッパーが猛追。

残り100mを過ぎて、勢いは完全にアイポッパーだ。

しかし、ここからポップロックも譲らない。

青い帽子の2頭の激しい鍔競り合いは

僅かにポップロックが振り切って

先頭でゴールを駆け抜けた。



アイポッパーとは3.5㎏の斤量差があったのは確かだ。

だが、最後に見せた根性は

3連勝中の自信と勢いが後押ししていたように思う。

自身の重賞初勝利は

父・エリシオにとっても牡馬産駒の重賞初勝利になった。



国内GⅠ初挑戦となった有馬記念(GⅠ)


このレースの勝利のあと

一旦は、宝塚記念(GⅠ)に挑戦するプランが

発表されたものの、これを自重し

秋にオーストラリア遠征を行なうことが決まった。



同厩舎のデルタブルースと共に

海を渡ったポップロックは

前哨戦のコーフィールドカップ(GⅠ)で

小差の7着に入ると

本番のメルボルンカップ(GⅠ)では

デルタブルースのハナ差2着に入り

春からのさらなる成長を見せてくれた。





期待の高まる凱旋初戦は

年末の有馬記念(GⅠ)だった。

とはいえ、このレースの話題の中心は

これが引退レースとなるディープインパクト。

その単勝オッズは、1.2倍という圧倒的なものがあり

ポックロックも含め

他馬は2番手争いという図式だった。



だからと言って、メンバーが弱いのかといえば

決してそんなことはなかった。

天皇賞・秋(GⅠ)、マイルCS(GⅠ)を連勝して

ここに臨むダイワメジャー。

この年の3歳クラシック路線の主役だった

メイショウサムソンとドリームパスポート。

GⅠ3勝の牝馬・スイープトウショウや

天皇賞・秋、ジャパンカップ(GⅠ)と連続4着で

復調してきたコスモバルクなど

多士済々のメンバーが集まっていた。



大一番のゲートが開いた。

まず飛び出したのは

この年の日本ダービー(GⅠ)2着馬

アドマイヤメイン。

1周目の4コーナーを回ってスタンド前に出る頃には

2番手以下に10馬身近い差をつけている。



ダイワメジャーがスッと2番手につけて

3番手集団の内にデルタブルース

外がメイショウサムソン。

これらの間をポップロックが追走していた。

今回が初コンビとなるペリエジョッキーが

有利な1番枠を活かして好位置につけている。

ドリームパスポートは中団の内側を回っていて

その後ろにポツンとコスモバルク。

ディープインパクトは例によって後方からで

スイープトウショウはさらに後ろから競馬をしている。



逃げるアドマイヤメインは

11秒台のラップを刻みながら

2コーナーを回る頃には

後続との差を20馬身ほどにまで広げている。

この後も道中のラップが13秒台に落ちることはなく

淀みのない流れでレースは続いていく。

2番手以下の集団に大きな動きはなく

各馬が3コーナーへと差し掛かる。



2番手集団を引っ張っていたダイワメジャーが

じわじわと差を詰めていく。

これに外からメイショウサムソンが並びかけていって

一気にレースが動きはじめる。

ポップロックは変わらずに好位集団の馬群の中。

4コーナーに向かって

外々を回ってポジションを上げていた

ディープインパクトが

ギアを入れ替えて一気に加速していく。



最後の直線に入った。

アドマイヤメインを吸収した

ダイワメジャーとメイショウサムソンが抜け出しを図る。

その後ろでポップロックは窮屈になりかけたが

外に進路を見出してペリエジョッキーの左鞭が飛ぶ。

しかし、そのときには既に

ディープインパクトが外からまとめて交わして

3馬身ほど前を悠然と駆けている。



最後の坂を力強いフットワークで

ポップロックが駆け上がる。

その内からはドリームパスポートも脚を伸ばしてきたが

迫るほどの勢いはない。

坂を登り切って

しぶとく粘るダイワメジャーを捕まえると

強力メンバーを相手に、見事に2着でゴールした。



重賞勝ちがあるとはいえ

当時は、54㎏の軽ハンデだった。

GⅠで2着があるとはいえ

オーストラリアの一戦だったので

メンバーレベルに疑問の声もあった。

さらに、日本に戻っての初戦ということで

コンディションの部分でもわからない所があった。

だが、ポップロックは

そういった不安材料の全てを払拭する素晴らしい走りで

ファンの期待に応えてくれた。



集大成となったジャパンカップ(GⅠ)


続く年明け初戦の京都記念(GⅡ)では

香港カップ(GⅠ)2着からここに出走してきた

アドマイヤムーンにクビ差届かず2着と敗れる。

さらに、これをステップに

ドバイシーマクラシック(GⅠ)に挑戦するも

6着に敗れてしまう。



だが、当日のドバイデューティーフリー(GⅠ)を

アドマイヤムーンが制しており

これによってポップロック自身も

GⅠに手が届く所まで来ていることが改めて示された。



日本に戻ると昨年に続いて目黒記念(GⅡ)に挑戦。

58.5㎏というトップハンデにも耐えて

見事に連覇を達成する。

これをステップに挑戦した宝塚記念(GⅠ)は

またしてもアドマイヤムーンの好走の前に

遅れを取り3着。

存在感は示すものの

主役にはなりきれないレースが続いていた。



夏を越して秋を迎えた。

6歳の秋といえば晩成タイプだとしても

そろそろ大きなタイトルを獲っておかないと

不安が募りはじめる時期である。

初戦となった京都大賞典(GⅡ)では

1番人気の支持を集めるも

インティライミの差し脚に屈し2着。

続く天皇賞・秋(GⅠ)は、不利な外枠だったとはいえ

メイショウサムソンの完勝の前に4着に敗れてしまう。





2007年11月25日。

叩き3戦目のポップロックは

ジャパンカップ(GⅠ)の舞台にいた。

鞍上は、前走から再びペリエジョッキーに戻っている。

今回もメンバーは楽ではない。



今年、既に2度先着を許している

4歳勢のアドマイヤムーンにメイショウサムソン

さらに、牝馬ながら

この年のダービー(GⅠ)で牡馬を蹴散らしたウオッカ。

前走の京都大賞典(GⅡ)で敗れたインティライミや

休み明けながら堅実に走るドリームパスポートなどがいて

見ている方からすれば

楽しみなレースになることは間違いない。



当日の最高気温は18℃。

この時期にしては温かい1日だった。

西日を受けて18頭がスタートした。



何が行くのかと思われたが、各馬が譲りあう中で

2走前の毎日王冠(GⅡ)を

レコード勝ちしたチョウサンが

ハナを奪って主導権を握った。

これを追いかけるのは

今回で4年連続して

ジャパンカップ(GⅠ)出走となるコスモバルク。



少し縦長になった隊列が

2コーナーを回って向正面を目指していく。

ポップロックは2番枠を活かして

早めに3番手集団に取りついている。

この位置取りは

前年の有馬記念(GⅠ)のときと全く同じだ。



そこから3馬身後ろの好位にアドマイヤムーンがいて

メイショウサムソンは

この日は中団から競馬をしている。

先頭までは12、3馬身といったところ。

ドリームパスポートやインティライミは

中団よりも後方に位置どって

ウオッカは、満を持して最後方から進めている。



向正面の中間を過ぎて

中団より後ろにいた馬たちが

前との差を徐々に詰めていく。

ポップロックは変わらずに3、4番手のインコース。



3コーナーを回って、さらに馬群は凝縮。

メイショウサムソンが

その集団の大外を回って好位に上がってくる。

アドマイヤムーンは

内ラチ沿いにポジションを押し上げてきた。

インティライミとドリームパスポートは

外に進路を取って

ウオッカは内を回って差を詰めてきた。

ポップロックは馬群の真っ只中にいる。



直線に向いて、先頭で粘るチョウサンの外に

おあつらえ向きに進路が開いたアドマイヤムーンが

一気に並びかけてくる。

外から追い込んでくるのはメイショウサムソン。

その内でポップロックにもエンジンが掛かった。

直線で外に持ち出したウオッカも懸命に追いすがる。



残り200m。

アドマイヤムーンが2馬身抜け出した。

チョウサンは後退。

ポップロックが来る。

メイショウサムソンも来た。

ウオッカも伸びている。



その中でポップロックの脚色に最も力がある。

外のメイショウサムソンを抑えながら

内のアドマイヤムーンを捕まえにかかる。

ペリエジョッキーの左ムチがうなる。

1馬身、半馬身、その差はみるみる詰まる。



残ったか、捕まえたか。

内ではアドマイヤムーンが

渾身の走りでゴールに飛び込んだ。

外ではポップロックも

ペリエジョッキーが腕を最大限に伸ばして

ゴールを駆け抜けた。



ほとんど並んでの入線だったが

勝ったのはアドマイヤムーンだった。

非常に激しいゴール前の攻防に僅かに及ばずに

ポップロックは2着に敗れた。

あと一追いできていれば

入れ替わっていたに違いない。

だが、この僅かな差がGⅠという高い壁でもあった。

負けはしたもののポップロックは

その強さを競馬ファンに大いにアピールした。



活躍の場をヨーロッパに移して


しかし、ポップロックは力のすべてを

このレースで出し切ってしまっていたようだ。

ポップロックにとっては死闘といっても

過言ではないレースだったのかもしれない。

期待された、続く有馬記念(GⅠ)で5着に敗れると

翌年の阪神大賞典(GⅡ)で3着に入って以降は

一度も馬券に絡むことなく日本の競馬界に別れを告げる。



そのあと、ポップロックは

種牡馬という道を選ぶことなく

アイルランドでの現役続行が発表された。

これは、重厚な欧州血統の父・エリシオが

日本で活躍馬を出せなかったことも影響したのだろう。



このとき既に9歳である。

それでも移籍初戦で勝利を飾ると、次走には

GⅠ・アイリッシュセントレジャーに挑戦する。

だが、レース中に右前脚に浅屈腱炎を発症し競争中止。

そのまま現役引退が決まった。

9歳馬に対しての62㎏という酷量も

少なからず影響があったはずだ。



その後は、チェコに場所を移して

2011年より種牡馬として第2の人生を送っている。

日本では需要がなかったが

こうして海外で種牡馬入りができたことは

ポップロックにとっても

携わった全ての人にとっても幸せなことだったろう。



2014年の8月にはスロバキアで

産駒のカリプソオブグレイシー(牡)が

デビュー勝ちを収めたという

嬉しいニュースが飛び込んできた。

この勝利は、ポップロックにとって

自身の産駒の初出走初勝利となった。



近い将来、もっと大きなニュースが

飛び込んでくるかもしれない。

競馬ファンの間でいつかまた

ポップロックの話題が飛び交うようになるかもしれない。

今は、自身の成績を越えるような二世の誕生を夢見て

それを心待ちにしよう。

父・ポップロックのこれからが楽しみになってきた。



愛すべきポップロックらしさ


ポップロックは残念ながら

GⅠのタイトルには手が届きませんでした。

ただ、全盛期には

ディープインパクト、アドマイヤムーン、

メイショウサムソンといった実力馬たちと

真っ向勝負を繰り広げました。

僕は、王者よりも挑戦者の立場の馬が好きなので

こういったポップロックのような馬は

ついつい応援したくなります。



個人的に、最も強く印象に残っているレースは

やはり、一歩及ばなかったジャパンカップ(GⅠ)です。

勝ったアドマイヤムーンという馬は

大舞台に強く、華のある馬でした。

一方で、ポップロックというのは

潜在能力はあるものの、どこか地味な存在でした。



アタマ差という僅差で雌雄を決したあのゴールの瞬間も

アドマイヤムーンのそういった部分が

色濃く現れていたのかなと思います。

逆にいえば、GⅠであと一歩というのが

ポップロックらしさだったのかもしれません。



ただ、ポップロックがGⅠ馬になれなくても

日本で種牡馬入りできなくても

日本での晩年は、芳しい成績が残せなくても

僕にとって、大切な思い出の1頭であることに

変わりありません。

この馬の強さを知っている人は

それほど多くないかもしれませんが

それでもファンにとってポップロックは

いつまでも強いポップロックのままです。



記憶の中では

名馬ポップロックがダイナミックな走りで

力強くターフを駆け抜けていきます。

そんな記憶の中では、ときどき

ゴール前でアドマイヤムーンをきっちりと交わして

GⅠ馬となったポップロックの姿が浮かんできます。

まぁ、その時くらいはGⅠ馬にしてあげても

バチは当たらないでしょう(^ ^)





※最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


一競馬ファンが偉そうなことを言ってしまい

気分を害された方もいるかと思います。

もし、そうでしたら謝ります。失礼しました。



しかし、ポップロックのファンだからこそ伝えたいこと、

書き残しておきたいことがあったのも事実です。

このブログを読んで

少しでもポップロックに

魅力を感じていただけたなら嬉しいです。

もしよろしければ、コメントをいただけると幸いです。

どうもありがとうございました。


はるかなる。





★はるかなる。の人生ゴボウ抜き!!★は

毎日20時30分~21時頃に更新しています。




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