心の名馬たち(5) ノースフライト

僕がノースフライトを好きな3つの理由


僕はノースフライトの現役時代を知らない。

この馬がターフの上で躍動していた頃は

競馬という存在すら知らなかったはずだ。

きっかけとなったのは中学生の時に

友達と夢中になったダビスタだった。

そのゲームの中でマイルチャンピオンシップ(GⅠ)を

よく勝っていた馬だった。

だから当時はマイル路線で

強い牝馬の1頭だったんだろうな

くらいにしか思っていなかった。



ところが、実際に走る映像を見ることがあり

その印象が一変した。

『この馬は強い牝馬の1頭などではなく

 名馬といえるほどの馬だ』

そう思うようになった。



それは、グリーンチャンネルで

ノースフライトの特集かなにかをやっていたのを

たまたま目にしたのだと思う。

(結構前の話なので自信はないです・・・)

このコラムを書くにあたって

再びそれらのレースを見てみることにした。

久しぶりに見てみると改めてこの馬の凄さに気付く。

20年の時を超えて受ける新鮮な衝撃。

ノースフライトについて思うことを書いておく。





僕がノースフライトを好きな理由は主に3つある。

1つ目の理由は

同一年に安田記念とマイルチャンピオンシップの

春秋のマイルGⅠ制覇という偉業を達成したこと。

2つ目は、サクラバクシンオーという

稀代のスプリンターと鎬を削ったことで

名勝負が生まれたこと。

最後の3つ目は、体質の弱さが起因で

デビューが延びてしまい

遅れてきた新星となって登場したことである。



色鮮やかなオーラを纏って


遅れてきた新星・ノースフライトは

3歳の5月に裏開催の新潟競馬場でデビューを迎える。

マイル戦のそのレースをスピードの違いで先行すると

道中は2番手を追走して最後の直線を迎える。

残り200mでジョッキーが手綱をとおして

軽く合図を送ると一瞬で加速。

「びゅーーーん」といった効果音が聞こえるような走りで

後続を9馬身ちぎり捨てた。



それはもう惚れ惚れするような走りで

色鮮やかなオーラが

燦然と輝くようだった。

ノースフライトは、ただ一度の走りで

見ているものに名馬の誕生を予感させた。



続く2戦目の500万条件は

小回りの小倉競馬場での一戦。

この時もスピードを活かした先行策を見せると

3コーナーで馬なりのまま先頭に立つ。

あとは走れば走るだけ後ろの馬が離れていくという

末恐ろしい内容で圧勝。

デビュー2戦で1度もムチを使わずに

併せて17馬身の差をつけてみせた。



こういう馬に携わっている関係者や

実際に競馬場でその走りを見た競馬ファンが

期待しないわけがないだろう。

『こいつは凄い馬だぞ』

その気持ち、その高揚感は

リアルタイムで走りを見ることができなかった僕にも

容易に想像がつく。



平坦ではなかったGⅠへの道


3戦目の900万の特別戦(現1000万)は

GⅠ・エリザベス女王杯出走のために

負けられない1戦だった。

当時のエリザベス女王杯は今とは違い

牝馬クラシックの最終戦として

位置づけられていた。



それまでの走りに魅了されたファンは

1.2倍という圧倒的な支持で迎えたが

5着というまさかの結果がそこにあった。

好位に控える競馬が影響したのか。

2000mに延びた距離が原因なのか。

それとも牝馬特有の体調管理の難しさがあったのか。

明確な理由はわからないが

ノースフライトが馬券圏外に敗れたのは

後にも先にもこの時だけである。



ノースフライトはこの後、熱発を起こしてしまう。

これは体質の弱さも影響しているだろう。

デビューからまだ半年も経っていない。

それでも懸命の調整の末に

次走の出走に漕ぎつける。

突如、目の前に現れた見たこともない原石を

珠玉の逸品に磨き上げるために

陣営は決してGⅠ挑戦を諦めなかった。

900万の身ながら古馬に交じっての重賞挑戦。

舞台は初めての東京競馬場。

府中牝馬ステークス(GⅢ)だった。



当時は、マイル戦だったので

距離面での不安はなかった。

2階級下の条件馬ということで

斤量は最軽量の50㎏。

条件的には大駆けがあっても不思議ない状況だった。



レースでは、スタートこそ良くなかったが

スピードの違いでするするとポジションを押し上げ

道中は3番手からの競馬。

そのまま手応え良く直線に向くと

馬場の真ん中から力強く抜け出して

初の重賞挑戦で勝利を挙げた。

それと同時にGⅠへの切符を

自らの力でもぎとったのである。



一味違う走りを見せたエリザベス女王杯(GⅠ)


そして、迎えたエリザベス女王杯(GⅠ)。

距離は2400m。未知の領域だ。

唯一敗れた一戦が距離延長だった

2000mのレースだったことも不安視され

ノースフライトは5番人気だった。



3連勝でローズステークス(GⅡ)を制した

スターバレリーナが1番人気に抜擢され

春に桜花賞(GⅠ)とオークス(GⅠ)の

2冠を制したベガは

休み明けを嫌われて2番人気だった。

その両方で差のない2着に頑張っていた

ユキノビジンがこれに続く3番人気で

この3頭が人気を分けあっていた。



レースは、ケイウーマンが前半の1000mを

58.2秒という前傾ラップで先導する。

だが、2番手以下の馬はこれについていかず

後続を突き放す形になる。

つまり、2番手以下の先行グループは

ほぼ平均ラップを刻んでいたと思える。



そんな流れの中でノースフライトは

前から5、6頭目を追走する。

スターバレリーナは積極的に3番手のポジション。

ユキノビジンはそれを見る形でインコースの4番手。

ベガは中団の外目に構えて

スムースに流れに乗っていた。



3コーナーの坂の頂上でケイウーマンが

後続を引きつける。

凝縮した馬群を引き連れて再びペースアップを図ると

そのまま先頭で最後の直線へ。



しかし、もうお釣りがない。

これを捕らえに出たのは

オークスで4着と走ったデンコウセッカ。

2番枠を活かした巧い立ち回りで

空いた内から脚を伸ばしてきた。

スターバレリーナも外から迫ろうとするが反応が鈍い。

その外にいたユキノビジンも

もがくように苦しい走りになった。




すると、この2頭の間に突っ込んできたノースフライトが

一気に先頭に並びかける。

その後ろからベガも伸びてきているが

その差が詰まるほどのモノではない。

そこに最内からグイグイと伸びてきた馬がいた。

1枠1番・ホクトベガ。

内枠を巧く乗ったのはデンコウセッカだけではなかった。



ノースフライトを並ぶ間もなく抜き去ると

最後は1馬身半の差をつけて

1着でゴールに駆け込んだ。

ノースフライトはこの距離でも能力を見せて2着。

混戦となった3着争いは

意地を見せたベガが食い込んだ。



今でも耳に残っているフレーズが生まれたのが

このときのエリザベス女王杯だった。

『ベガはベガでもホクトベガです!!』

だから、競馬ファンの中で

ホクトベガとベガが争った印象はあっても

ノースフライトの印象は強くない。



だが、その内容は強さを印象づけた。

このレースの2着というのは

非常に価値のあるものだったと思う。

展開や相手に恵まれたものではなく

それまでとは一味違う

差してくる競馬で力強い走りを披露した。

現状で、既にGⅠでも

互角に走れるということがわかったし

何より賞金が加算できたことで

使いたいレースに使えるという

安心感を手に入れたのである。



タフな競馬になった安田記念(GⅠ)


その後、年末に行われた

当時は、2000mだった阪神牝馬特別(GⅢ)と

年明けのマイル戦の京都牝馬特別を(GⅢ)を快勝。

3コーナー過ぎで先頭に立つという横綱相撲で

直線では影も踏ませぬ走りで連勝を飾った。



その勢いは留まることを知らず

続く、この年は中京の1700mで行われた

マイラーズカップ(GⅡ)も

牡馬を相手に積極策から競り合いを制した。



このレースで2着だったマーベラスクラウンは

この年の秋にジャパンカップ(GⅠ)を勝ち

4着だったネーハイシーザーは

天皇賞・秋(GⅠ)を制するほどの馬なわけだから

ノースフライトの強さが

並々ならぬものだということがよくわかる。





充分過ぎるほどの実績を引っ提げて

ノースフライトは安田記念(GⅠ)へと駒を進める。

だが、2度目のGⅠ挑戦もまた5番人気と

中心的な存在ではなかった。



1番人気は前哨戦の

京王杯スプリングカップ(GⅡ)を勝った

フランスから参戦のスキーパラダイス。

その鞍上には前走まで

ノースフライトの背中にいた武豊がいた。



2番人気はジャックルマロワ賞などGⅠ4勝の

イギリスからやってきたサイエダティ。

日本馬の中で最上位の評価を受けたのは

前年のスプリンターズS(GⅠ)を制し

3連勝と波に乗るサクラバクシンオーで3番人気。

これに、他馬より重い58㎏を背負いながら

京王杯スプリングカップで4着に入った

イギリスのドルフィンストリートが続いて

ノースフライトを含めた5頭が単勝10倍以下だった。



ゲートが開く。

外枠各馬が好スタートを切る中で

5番枠のノースフライトが出遅れてしまう。

いつもとは違うスタイルで

後方からの競馬を強いられることになった。



前の争いは

楽な感じでマザートウショウが出て行くところを

大外からマイネルヨースが交わしてハナを奪う。

その後ろは大きな集団となり

サクラバクシンオーがこれを引っ張る形で

スキーパラダイス、サイエダティ、

ドルフィンストリートあたりも差のない位置を追走する。



このレースのラップタイムを見ると

前半の800mが45.2秒

後半のそれが48.0秒という

明らかな前傾ラップだった。

しかし、そのハイペースの中

有り余るスピードを活かして

サクラバクシンオーがするすると上がっていく。

4コーナーにかかる頃には

マイネルヨースを捕らえて早々先頭に立つ。



スキーパラダイスは好位でじっと我慢。

馬群の内側にサイエダティがいて

一旦、中団の後ろに下がっていたドルフィンストリートは

空いた最内に進路をとって一気に先団へ上がってきた。

ノースフライトはというと集団の大外を回って

中団まで進出してきている。



手応えよく直線に向いたサクラバクシンオーだったが

東京マイルの舞台では

さすがにもうひと踏ん張りは見られない。

内からドルフィンストリートが

ジリジリと詰め寄ってきたところに

外から弾けるようにノースフライトが飛んできた。

残り200mで早くも先頭に立つと

最後は後続に2馬身半の差をつける一方的な内容で

GⅠ初勝利を挙げたのだった。



2着には漁夫の利で追い込んだトーワダーリン。

3着が巧く立ち回ったドルフィンストリート。

先行勢では唯一残ったサクラバクシンオーが4着で

スキーパラダイスは伸び切れず5着に敗れた。



東京のマイル戦は

真の力が問われるコースだと言われるが

ペースが速くなったこともあり

底力とタフネスさが問われる一戦となった。

そのレースで大外を回って進出し

直線でもあっという間に先頭に踊りでた走りは

牝馬特有の華麗さだけではなく

名馬としての風格を感じさせた。

ゴール後に首元を優しく叩いたのは

府中牝馬ステークス(GⅢ)で初重賞制覇に導いた

角田晃一ジョッキーだった。



サクラバクシンオーとの一騎打ち


秋の最大目標を

マイルチャンピオンシップ(GⅠ)に定めた陣営は

夏休みを挟んでの秋初戦に

スワンステークス(GⅡ)を選択する。



この年に限り阪神競馬場で行われたこのレースは

稀代の名スプリンター・サクラバクシンオーと

春にマイルの女王の称号を得たノースフライトの

2度目の対決の場であり

同時に、両者のベスト距離の中間の

1400mという距離で

どちらが強いのかを確かめるためにも

非常に興味深い一戦となった。



人気はサクラバクシンオーが上位だった。

秋初戦に毎日王冠(GⅡ)を使い

これが叩き2戦目だったことと

距離不適の前走でも4着と踏ん張ったことで

条件好転となる今回は

更なる前進に期待してのものだろう。



一方、2番人気に甘んじることになった

ノースフライトだが

こちらは5ヶ月ぶりの実戦だということに加え

そもそも1400mという

短い距離を走るのが初めてだったこともあり

この評価に落ち着いたのだろう。



レースでは快速エイシンワシントンがハナを奪う。

好スタートを切ったサクラバクシンオーは

17番枠だったこともあり控えて3番手あたり。

ノースフライトもまずまずのスタートを切ると

好位の6、7番手を追走する。



軽快に逃げるエイシンワシントンに

いつの間にか2番手に上がったサクラバクシンオーが

外からプレッシャーをかけていく。

一方、ノースフライトは

エンジンが掛かりきっていないのか

中団までポジションを落としている。



直線を向くと持ったままで

サクラバクシンオーが前に出て

堂々と先頭を駆けていく。

ノースフライトは馬群がバラけたこともあり

不利を受けることなく末脚を繰り出し伸びてくる。

だが、手応えが違いすぎた。

残り100m付近で

ようやく追い出したサクラバクシンオーを

脅かすことさえできずに

2着まで押し上げるのが精一杯だった。



ただ、ステップレースと考えれば充分な内容だった。

このハイレベルなレースに名前を連ねたこともまた

ノースフライトの価値を高めたと思う。

59㎏を背負ったサクラバクシンオーが

楽々と当時の日本レコードで駆け抜けた瞬間に

牝馬ながら57㎏を背負ったノースフライトが

最速の上がりを駆使して追い上げる。

強い馬同士の戦いには

何度見ても飽きのこない特有の空気感がある。



この空気感を醸しだすレースというのは

必ずしもGⅠの舞台とは限らない。

ナリタブライアンとマヤノトップガンの

阪神大賞典(GⅡ)しかり

サイレンススズカが

エルコンドルパサーとグラスワンダーに

影さえ踏ませずに逃げ切った毎日王冠(GⅡ)しかり

アグネスタキオンが

ジャングルポケットやクロフネを相手にしなかった

ラジオたんぱ杯3歳S(GⅢ)しかりだ。



ライバルとの決着


少し話がずれてしまったので

ノースフライトの物語に戻る。

舞台は再び淀のターフ。

マイルチャンピオンシップ(GⅠ)。

そこには今回もライバルである

サクラバクシンオーが待ち構えていた。

ここまでの成績は1勝1敗の五分。

ただ、今回はノースフライトに利があるマイル戦。

1番人気の支持も得た。

負けたくはない一戦だった。



レースはいいスタートを切った

サクラバクシンオーが

内の馬に行かせて3番手をなだめるように進む。

ノースフライトはこれを射程圏に入れる形で

2馬身ほど後ろを追走している。

抑えきれない手応えのサクラバクシンオーが

先頭に並びかけるようにして最終コーナーへ。

これに離されないように

ノースフライトも外を回って2馬身後ろをついていく。



最後の直線。

今日もサクラバクシンオーの手応えには余裕がある。

だが、遠心力を味方に

スピードに乗ったノースフライトが一気に並びかける。



残り300mで早くも一騎打ちの様相。

馬体を合わせての追い比べとなったが

ノースフライトが一歩前に出て

サクラバクシンオーの勢いを封じにかかる。

息遣いが聞こえてくるような烈しい争いは

残り100mを切ったところで終わりを迎える。

苦しくなったサクラバクシンオーを置き去りにして

ノースフライトが先頭でゴールを駆け抜けた。





春秋のマイルGⅠを制覇した名馬は

このレースを最後にターフから去る。

競走馬として名前を連ねた1年半の間に走り抜けたのは

僅か11戦だけだったが

どのレースを見てもこの馬の魅力が溢れている。



デビュー戦に魅せた色鮮やかなオーラは

最後の最後まで変わることなく輝きを放っていた。

内面から湧き出るようなその魅力は

ファンの心に深く根づいている。

その魅力が時を越えて、今

芽を出し、茎が伸び、葉をつけた。

そして、思い出す度に綺麗な花を咲かせている。



好きな馬がいるということは幸せなこと


ノースフライトが2歳戦からデビューできていたら

どれほどの馬になっていたのか。

現在のように古馬牝馬路線が整備されていたら

果たしてどれだけGⅠを勝っていたのか。

そんなことを考えても意味はないのですが

つい、考えてしまいます。



ここ数年、ウオッカやダイワスカーレット

ジェンティルドンナにハープスターなど

素晴らしい牝馬が誕生していますが

90年代の牝馬の強さも

それに匹敵するほどのモノがありました。



ノースフライト以外にも

同じくマイルを中心に駆けたダイイチルビーや

豪快な末脚を見せた○外のヒシアマゾン

天皇賞・秋(GⅠ)を制して

年度代表馬にもなったエアグルーヴなど

実力とともにファンの多い馬が多かったですね。



リアルタイムで知らなかった馬を

かつての映像を見ることで

好きになるというのもいいものです。

まだ若い競馬ファンの人や競馬歴の浅い方には

そうやって馬の歴史を知っていくことで

サラブレッドに魅せられて

競馬に夢中になることをお薦めします。



別にギャンブル依存症になれ

と言っているわけではないですよ(笑)

そういうことではなくて

好きな馬がいるということは

幸せなことだと思うのです。

好きな音楽を聞きながら美味しいお酒を飲むことも

好きな場所に出かけて心が癒やされることも

好きな馬の走りを見ながら声を出して盛り上がることも

どれも幸せなことだと、僕は思います。





※最後まで読んでいただき、ありがとうございました。


一競馬ファンが偉そうなことを言ってしまい

気分を害された方もいるかと思います。

もし、そうでしたら謝ります。失礼しました。



しかし、ノースフライトのファンだからこそ

伝えたいこと、書き残しておきたいことが

あったのも事実です。

このブログを読んで

少しでもノースフライトに

魅力を感じていただけたなら嬉しいです。

もしよろしければ、コメントをいただけると幸いです。

どうもありがとうございました。


はるかなる。





★はるかなる。の人生ゴボウ抜き!!★は

毎日20時30分~21時頃に更新しています。




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